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U.Ge Lab コラム

「ホッとする、こと・もの・ところ・とき」⑤

日常で、軽い心配事、ストレスや繁忙期から解放されてホッとするということはよくありますが、この機会に、ホッとするとは、自分にとってどういうことなのか、もう少し踏み込んで考えてみました。

ひととき現実や日常をはなれて、無になる、ちょっとしたリフレッシュ、スローダウンすること、そして、心があたたかくなる、おだやかになる状態だと思います。

遺跡にたたずむとき、わたしはそんな気分になります。古代建築の址、かつては街を囲んでいた崩れた城壁、日本の古墳や、縄文・弥生集落跡、特にもとの形をとどめていない遺構は想像力を掻き立て、静かにその時代へと誘ってくれます。古代の人々と同じ場所に立ち、同じ風を感じ、同じ自然を眺め、遺跡の石や土に触れ、古代人の社会やくらしに思いを巡らせます。

タイムスリップしたように時間がゆるやかに流れる遺跡の世界は、機械もデジタルもなく、全て人の手で作っていた時代です。建材も、植物、木材、石、土、日干しレンガなど、メンテナンスもしやすく機能的で、究極のサステナブル素材です。遺跡からの手がかりをもとに、当時の生活や社会、出来事を思い描くと、人間の本質を感じて、ホッとする気分になります。長年そこにあり、これからも存在し続ける遺跡に、悠久の時の流れと、なぜかなんともいえない懐かしさや安心感を覚え、いつまでも眺めていたくなります。

遺跡を巡るだけではなく、どっぷりつかってみたいと、今年は中央アナトリアで発掘フィールドワークに参加しました。中央アナトリアには古代エジプトと双璧であったヒッタイト帝国時代の遺跡が点在しています。紀元前1269年の世界最古の平和条約は、この両国間で締結されています。奇しくもこの時の戦いは、今日も紛争が続くシリア、パレスチナ地域です。時代を超えて技術はめざましい進歩をしても、人間としての根本はそれほど変わっていない気がします。むしろ、平和条約を締結できた古代人の方が優れていたかもしれません。もちろん、私たちに古代人の生活ができるわけではありませんが、学ぶべきことは多くあります。

便利になっているようで、ますます複雑化する現代の社会や生活。シンプルな生き方や大切なことを教えてくれる古代の遺跡は、私にとって、日常生活から少し距離を置き、スローダウンして原点回帰させてくれる、ホッとするところなのだと改めて思いました。

自分にとってホッとできる、こと・もの・ところ・とき、を知っておくことは、変化の速い不安定な今日の世界で生きる私たちにとって、とても大切なことだと気づかされました。
“ホッとする”機会を意識的に増やしていきたいですね!

中央アナトリアの朝日

BASFジャパン(株) カラーデザイン・アジアパシフィック 松原千春